東京Ⅰ
光と影を追う

東京の夜・・・
整然ともいう風情に佇む都市の夜
心に静かさ穏やかさを纏い 街の気配に意識を向ける時
その光や影は、街を行き交う彩りや輝きは
とりどりのどよめきにも似た夜の色彩を心に映す
無言で行き交う人、行き交う物音に耳を澄ましてみる
華やかでとりどりの光の中に アンバーを帯びた影が屯する
都市の風と夜の深淵を感じる時
それは冷ややかな感触であり また一芥のすがすがしさであったりする
それは、街の光、彩り、様々な意匠に、
行き交う光や人影に目眩く時でもあった
都会の孤独にあってはまたそんな時がひとつの慰めであった
夜が 人影が 行き交う人々が
静かな喧騒のような音を残し過ぎ去ってゆく車の行く手が
心に無言で残すものはなにか・・・






仕事から・・・日中の気ぜわしさから解放され今日もまた家路につく
都心の交差点や横断歩道を誰彼となく行き過ぎる
車のライトがまばゆく足元を照らす
昼間の火照った気持ちがいくらか冷まされる時・・・
一日の終わりは安堵だろうか・・・
車や人が立ち止まり また行き過ぎる
こちらを照らす車のライトとそれに浮かぶ人影が
なにか得体のしれぬ孤独をけしかけるもののように思える
仕事の同僚だろうか時折会話が伝わってくるが
あとはだれもかれも無言のなか帰途につく
だれもが異邦の人にさえ見える
アスファルトの歩調に硬い靴音を残し
そうして今日の日がまた終わろうとしている





東京の夜に雨が降った 大雨の日だ
雨粒がやかましいばかりにバチバチと道路を叩く
そんな音が耳を叩く騒然たる光景の中を行く
靴 スーツもぐしょ濡れになり
なにか滅入りそうなしょげ返りそうな気分になる
しかし傘に覆われるばかりではない ふとあたりに目をやれば
路傍灯、街路灯、信号やビルの明かりが
黒い鏡面となった路面に束の間のとりどりのアートを描いている
濡れそぼった気持ち 家路を急ぐ気持ちばかりだが
いくばくか心に彩りを覚えたりする





丸の内仲通りは石畳が続く
冷ややかに照り返す路面に編み上げの靴音を残し
傍らを寡黙に人影が行き過ぎる
夜、表情もなく傍らを行く彼らは得体のしれぬ異邦の人だ
そうこの通りは夜ともなれば暗がりの中に
冷然さながらの光を交えた光景が支配する
無言の映画シーンにでも紛れ込んだかの錯覚さえ覚える
暗さの中に一束照り返す明かりが帰途の道筋を促す
それが感情を交えることもなく今日の日の終わりを暗示している





夜の暗がりが アスファルトやら石畳やらに浮かび上がる道筋が
硬質な感触を伝え 帰宅の途をゆく足取りを都市のかなたまで導く
とりあえず今日も一日が終わったのだ・・・
終わってしまえば今日という日はあまりに速やかだったとふと思う
それは過ぎ去った日々の規則を持った残響のような律動であり
あるいはあまりに整然と過ぎ去った日々の余韻でさえある
毎日通るこの通りが冷ややかさをもってそう暗示しているかのようだ
そんな余韻を感じこの通りを今日もまた行く
こんな毎日が永遠に続くようでさえある
そんな錯覚を覚え今日もまた帰途につく




都市の朝だ
有楽町から大手町までを歩く
朝日が眩しく都会の木々を照らし、ウインドウ越しに人影が行き交い
背伸びのっぽ姿で曙光に照る歩道路面を行き来している
冬、コートに身を包んでも
まだ冷えた体には冷気が忍び頬肌を刺す
しばらく歩けば体も少し温まってくるが
冷却されたビル群やその硬質な都市空間はなお体に気持ちに
冷ややかに挨拶を返してくる
しかし・・・仕事に向かう朝はそんな冷気で
気持ちが引き締まる空気のほうがふさわしい・・・






丸の内仲通りの朝
仕事に向かう人の歩調は速い
この通りも早や一千回は歩いてきた
だから今日の仕事への道のりに迷いはない
同じ時間同じ道を今日も歩く・・・
脳裏には一日のスケジュールが駆け巡る
今日ある課題をシミュレートする
今日の自分は起こるであろう出来事にどう立ち回るだろうか・・・




午前の仕事が終わる
大手町ビルオフィス街に昼が訪れる
ブレイクタイムに通りに人があふれだす
太陽が天中に上り冬の気候もいくらか緩んでいる
ふうと・・・解放された気分が街のにぎやかさとなり
気の合う同僚友人とのかたらいがあり
気ままに2,3街区足をのばしたりする人もいる
思い思いにオフリラックスする
街にそんな雰囲気があふれる時・・・
明るい色、光が舞い、街の喧騒にも心に明るい響きが行き交っている・・・





丸の内仲通り
さまざまなブティックショップがウィンドウショーに趣向を凝らす
洗練されたデザイン群が端正ともいう風情を纏う
通りの街並み、向かいのビル、人影が交感し
共鳴するかのようにウィンドウを彩る
通りを行く人の目を束の間楽しませる
仕事に追われる心もせわしげな心も
朝の新鮮な冷気に包まれこの通りを行けば
新たな目覚めの感覚を覚える雰囲気にであう
日々はあまりに速やかで捉えどころなく過ぎてゆくが
人の感覚にいくばくかの洗浄を与えるこの街並みを行けば
心に一迅 清浄な風を呼び込む感触を感じたりする



丸の内オフィスレディを一瞬映しても見る
この街の洗練を纏う人達だったりする
スマホは必須のファッションアイテムのようだ
SNSに勤しむのもそれが今を行くファッションだったりする
仕事のこと プライベートのこと グルメや仲間との交信
それぞれの今があり今日があり思いを巡らしている
彼女だけのロマンチシズムの世界を巡っているのかもしれない





丸の内にももうすぐクリスマスがやってくる
通りのショップのウィンドウにも様々な意匠が映りだす
ツリーに星、赤や青、黄や緑の玉の装飾
楽しげにとりどりの色が目に映る
寒風にこころ浮き立つ季節がやってきた
しかし今年もあっという間だった・・・
今年もまたあっという間だった・・・とふと思う・・・
乾いた風を頬に感じ、なにか心が漠たる物に包まれ身震いしたりする
そんな心にどんなツリーをかざろうか・・・





ビルの合間を縫って自転車が行く
自転車での通勤やら郵便がゆく
自転車の往来も結構あるものだ
晴れの日も、雨の日も、風の日も・・・昼も夜も
自転車もこの仲通りにはもっともな風情ではないか
周囲の歩調を置き去りにして
颯爽と
軽快に
よどみない車軸の回転に運ばれて






都会の夜に
街中の夜の一角で
多忙をかき分けひとつバーレストに入ってもみる
今日の日はやれ終わったのだ
ネオンの色輝きがふと夜の憩いを思わせる
都市に通う人の束の間の安堵がある
棚には様々な酒が並ぶ
さてそこにはどんな夢や陶酔が詰められているのか
柔らかな灯火のもとで金色の飲料を傾けてみれば
泡立つ感触に一時解放された心が交感する
そうそんな仲間と気さくに話を交わす時が馨しい
赤や青の灯火といくばくかの陶酔に心を委ねる時が馨しい



都会のカッフェ・・・
有楽町に降り立てば交差点の向かいに
木調のカフェスタンドを発見する
真昼の休息
日々の気ぜわしさから少し離れて
休日であればオフィスワーカー風情はいない
午前はとうにすぎてしまっても
一口のコーヒーが休日の覚醒を与えてくれる
オープンテラスの開放空間もあったりする
なにをするでもなく何をかんがえるでもない
一時そんな一日があってもよい
しかし大抵はこれからまた仕事なのだが・・・







夜の帰宅の車窓にて
ぼ・・・・とした気持ちで電車に揺られる時
窓の向こうは東京の夜の街
暗がりのなか街の明かりが時速何十キロかで行き過ぎる
駅の明かりは冷たく、ビルの明かりやタワーの明かりも
何物をも語ることなく目の前を流れてゆく
昼の都市空間の表情は夜の暗がりが飲み込んでしまった
夜の光が朧げな都市の夜景をかろうじて判然とさせる
毎日そんな車窓の夜景色と電車の揺られにぼ・・・として
今日の仕事は、今日一日はまずまずだったな・・・と自分に語りかける
レール継ぎ目とガタゴト車軸の振動の響きに気持ちゆだねる時
電車が今日の日をまたどこかへ連れ去って行く・・・





